勇者「姫の首の後ろを手刀でトンッとやったら動かなくなった」
魔王城――
勇者(地下牢に閉じ込められてた姫は救出したし、あとは魔王を倒すだけだ……)
勇者(この扉の向こうに魔王がいる……!)
勇者「姫、君はここで待っていてくれ」
姫「嫌です! 私も戦います! 私だって回復魔法は使えますもの!」
勇者「ありがとう、姫」
勇者「だけど、君を連れていくわけにはいかない」トンッ
姫「うっ……」ガクッ
引用元: ・勇者「姫の首の後ろを手刀でトンッとやったら動かなくなった」
勇者「姫……君を巻き添えにするわけにはいかないからね」
勇者「じゃあ行ってくる」
勇者「……?」
勇者(あれ……?)
勇者(もしかして姫……息してない……?)
勇者(ウソだろ!? やべえ! メチャクチャやべえぞ!)
勇者「姫ぇぇぇ! 起きてくれ、姫ぇぇぇ!」ユサユサ
勇者「起きて起きて起きて起きて起きて!」ペチペチペチペチペチ
勇者(ダメだ! 全く起きない!)
勇者(どうしよう……どうしよう!)
勇者(せっかく陛下から姫救出を託されて、神様から神の剣を渡されて勇者になったのに)
勇者(このままじゃ俺は、勇者どころか姫殺害犯になっちまう!)
大切な者を簡単に傷つけてしまうほどに
勇者(どうしよう……どうしよう……)オロオロ
魔王「勇者よ、さっきから待っているが、まだ来ないのか!?」ガチャッ
勇者「ゲ、魔王!?」
魔王「おお、ワシとの決戦前に姫と会話しておったのか。邪魔したな」
勇者「あ、ああ……姫とチューしてたんだ、熱いチューを」ブチュッ
魔王「お熱いことだ」
魔王「ならばワシは部屋の中で待つとしよう」
勇者「……」ホッ
魔王「いやしかし、おかしくないか?」
魔王「なぜ、姫は勇者にキスされてるのに、なんの反応もないのだ?」
勇者「!」ギクッ
魔王「それに……なんかその姫、顔色が悪くないか?」
勇者「!!」ギクギクッ
魔王「もしかして……死んでるんじゃ?」
勇者「!!!」ギクギクギクッ
魔王「ま、まさか……」
魔王「まさかお前、姫を殺したんじゃ――」
勇者「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」トンッ
魔王「うっ……」ガクッ
勇者「ふぅー、ふぅー、ふぅー、あぶねえ……」
勇者(魔王が目覚める前に、姫をどこかに隠さなきゃ……)
勇者(――ん?)
勇者(あれ、もしかして……魔王も息してなくないか!?)
勇者「起きろ! 起きろ! 起きろ!」ベチッベチッベチッ
勇者「起きろぉっ!」バキッ!
勇者「ダメだ……起きない……」
勇者(やべえぞ、メチャクチャやべえ!)
勇者(姫と魔王、二人も殺したとなったら死刑確定じゃねえか!)
勇者(どうする……ごまかす方法を考えなくては)
勇者(俺が二人を殺したことを隠蔽する方法……何かないか?)
勇者(――そうだ!)
勇者(姫と魔王が相討ちになったことにすればいいんだ!)
勇者(俺がたどり着いた時にはすでに二人とも死んでたってことにすればいい!)
勇者(そうと決まれば、さっそく現場工作だ!)
勇者(まずは姫の死体に俺の剣を持たせて……)ササッ
勇者(魔王も姫の方を向いて倒れるようにしよう……)ズルズル…
勇者(これでよし!)
勇者(おおっ、姫と魔王が激戦の末、共倒れになったように見えるじゃないか!)
勇者(後はとっとと退散すれば……)コソコソ…
側近「魔王様! 生き残りの魔族を引き連れて援軍に参りました!」
勇者「なにぃぃぃぃぃぃ!!?」
側近「勇者!?」
勇者「まだ魔王軍が残ってたのかよ……!」
側近「そこに倒れてるのは……姫と魔王様!」
側近(そうか、ここで勇者と魔王様が決闘をし、魔王様は敗れ――)
側近(巻き添えを食った姫も亡くなったということか!)
側近「貴様ァ、許さんぞ! こうなれば弔い合戦だ!」
勇者「許さない……? そりゃこっちのセリフだ!」
勇者「せっかく偽装工作が終わったところに大勢引き連れてやってきやがってぇぇぇ!」
側近「かかれーっ!」
ワァッ!!!
勇者(こうなったら仕方ない……目撃者は生かしてはおけない!)
勇者(こいつら全員、首の後ろを手刀でトンッするしかない!)
ゴーレム「ガアアアアッ!」
勇者「パワーはあるが遅い!」トンッ
ゴーレム「うっ……」ガクッ
魔女「喰らいなさい! あたしの魔法!」
勇者「呪文など唱えさせん!」トンッ
魔女「うっ……」ガクッ
ガーゴイル「ウギャアアアアアッ!」
勇者「やかましい!」トンッ
ガーゴイル「うっ……」ガクッ
なんでも首トンッで終わらせるなんて
側近「バカな……あれほどの軍勢を手刀だけで全滅させるとは……!」
勇者「残るはお前一人だ!」トンッ
側近「うっ……」ガクッ
勇者「ハァ、ハァ、ハァ……これでやっと全員倒したな」
勇者「さて……こいつら全員が相討ちになったように現場を工作しないと……」
勇者「ゴーレムの死体はここに置いて、と」ドサッ
勇者「側近はこっちに置いておくか」ドサッ
勇者「これでよし」
勇者「おお! 魔王城で悲惨な大乱闘があったように見えるじゃないか!」
勇者「陛下には、魔王は自軍の乱闘で自滅し、姫はそれに巻き込まれて死んだ、と報告すればいい!」
姫「……う」
姫「あら、ここは……?」ムクッ
姫(う、ん……記憶がはっきりしませんわ)
姫「まぁっ、魔物がたくさん倒れてますわ! ――魔王まで!」
姫「全て勇者様が倒して下さったのですね!」
勇者「……」
姫「勇者様……?」
勇者「なぜ、起きた……?」
姫「へ?」
勇者「なぜ起きた! 姫ぇぇぇぇぇ!!!」
姫「ひええええええええっ!!!」
勇者「とうっ!」トンッ
姫「うっ……」ガクッ
勇者「これでよし、と」
勇者「さあ、こんなところはとっととおさらばして、凱旋しよ――」
魔王「うぐぐ……」ムクッ
魔王「ここは……? ワシの城か」
魔王「ワシはどうしていたのだ? なんで部屋の外で寝ていたのだ? ……思い出せん」
魔王「む、そこに立っているのは勇者! 待っておったぞ、いざ勝負!」
勇者「寝てろ!」トンッ
魔王「うっ……」ガクッ
勇者「ったく手間かけさせやがって……」
勇者(いや待てよ? 姫と魔王が目を覚ましたってことは……)
ゴーレム「ウゴゴ……」ムクッ
魔女「いたた……」ムクッ
勇者(やっぱり! どんどん起きてきやがった!)
ガーゴイル「ウ、ン……」ムクッ
勇者「てめえら、全員寝てろおおおおおおおおおおおお!!!!!」
トントントントントントントントントントントンッ
勇者「はぁ、はぁ、はぁ……」
勇者(姫も、魔王も、残党軍も、全員倒れてるみたいだな)
勇者「さあ帰り――」
ザッザッザッ……
国王「勇者よ、王国軍を引き連れて援軍にやってきたぞぉぉぉぉぉ!」
国王「さあ、余とともに魔王軍を蹴散らすのじゃ!」
勇者「……」
スポンサードリンク
勇者「おい、国王」
国王「はい?」
勇者「なんできやがったあああああああああああああああああああああ!!!」
国王「ええええええええええええええ!!?」
勇者「チョップ!」トンッ
国王「うっ……」ガクッ
兵士A「勇者様、何を!?」
勇者「うるせ!」トンッ
兵士A「うっ……」ガクッ
兵士B「勇者様がご乱心したぞ!」
勇者「黙れ!」トンッ
兵士B「うっ……」ガクッ
姫「あ、勇者様、私を助けにきてくれたの――」
勇者「また起きたのか!」トンッ
姫「うっ……」ガクッ
神「勇者よ、一部始終を天界から見ておったが、一体何をしてお――」
勇者「天国に帰れ!」トンッ
神「うっ……」ガクッ
ムクッ… ムクッ… ムクッ…
勇者(いくら手刀でトンッてやっても、前に寝かせた奴から次から次へと起きてくる!)
勇者(まるでモグラ叩きだ!)
勇者(だけど俺は諦めないぞ! 絶対諦めるものか!)
勇者(俺は諦めなかったから、勇者になれたし、魔王城までたどり着くことができたんだ!)
勇者「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
トントントントントントントントントントントンッ
10日後――
シーン……
勇者「や、やった……」
勇者「不眠不休で……手刀をし続けた結果……」
勇者「やっと……みんなを眠らせること、できた……」
ドサッ……
ザワザワ…… ガヤガヤ……
魔王「これは一体どういうことなのだ!?」
魔王「なぜ、勇者は倒れていて、我が魔王軍と憎き王国軍の全軍が集結しておるんだ!」
魔王「人間の王よ、なぜだか分かるか?」
国王「そんなこと余に聞かれても……困る」
国王「生き残りの兵士を率いて、勇者に加勢しにいこうってとこまでは覚えておるんじゃが」
側近「神様、何かご存じですか?」
神「いや……わしもなんで自分が下界にいるのかすら忘れてしまっておる」
ザワザワ…… ドヨドヨ……
姫「みんなのバカァッ!!!」
姫「なぜ王国軍も魔王軍も生きたまま集まっていて、勇者様だけ倒れているか?」
姫「そんなの決まってるじゃない!」
姫「勇者様は……勇者様は……」
姫「人間と魔族の全面戦争を体を張って止めてくれたのよ!」
姫「だから一人だけ倒れてしまってるのよ!」
魔王「な、なるほど!」
国王「そういうことだったのか!」
神「たしかにそれ以外に理由が考えられんな……」
魔王「すまぬ、勇者よ……許してくれ!」
国王「人と魔族のいがみ合いは、もうやめましょうぞ……」
神「うむ、神の名において、人と魔の和解を宣言する!」
姫(これで世界は平和になった……)
姫「だけど、勇者様は……勇者様はっ……!」
姫「勇者様……勇者様ぁっ……!」ポロポロ…
その時、姫が流した一粒の涙が、倒れている勇者の首の後ろに――
ポトンッ…
勇者「うっ……」ムクッ
姫「勇者様!?」
魔王「おおっ、勇者が生き返った!」
国王「なんと!?」
神「完全に死んでいたのに……まさに奇跡だ……!」
「勇者様バンザーイ!」 「勇者バンザーイ!」 「バンザーイ!」
勇者「……?」
国王「よくやってくれた、勇者!」
魔王「お前のおかげで世界に真の平和が訪れたのだ!」
神「おぬしは神よりも偉大な存在だ!」
姫「勇者様、感想を一言お願いします!」
勇者「……」
勇者「首の後ろを手刀でトンッするのは非常に危険であることがよく分かりました」
おわり
いきなりおわったし
もうひと暴れあるかと思ったが
おつ